2013年に出版されたバート・バカラック「ザ・ルック・オブ・ラヴ」。年老いた成功者が自分の言葉で自分を語ったとき、与える印象は美しい女性との華々しい恋愛のことではなく、ヒットの喜びや産みの苦しみですらなく、もっと振りほどきようのない人生の苦味だった。謙虚さと身勝手さが入り交じったやや自己批判的なトーンはまちがいなく自覚的なもので、原題はanyone who had a heart。松永良平によると「もし思いやりのあるひとがいたら」。http://d.hatena.ne.jp/mrbq/20140318
何度も描かれる身近な人との相容れない共感や、愛されるがゆえの宿命的な孤独はバカラックの音楽から受ける印象そのものであり、ティン・パン・アレイの職業作曲家としてはポピュラリティーを持つまでは至らなかった資質かもしれない。その一方でシンガーソングライター的な資質に富んだアーティストの内省の吐露としてはとても自然に思える。バート・バカラックは近作も素晴らしかったので、これを読んでから全く知らずにいた「Ron Isley Sings Burt Bacharach: Here I Am」を買った。きょうも一日ソファの上。